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by jmc_music2001jp

トスカニーニ、指揮法と音楽

 トスカニーニ指揮のNBC交響楽団の貴重な映像を見た。トスカニーニの指揮と音楽に、ジックリと触れる事が出来たのは、実は初めてだった。私もかなり長く生きて来たんだけれど、世紀の大指揮者についてコレが初めてとは・・・不思議な気がする。

 プログラムはワークナーの作品集。レコードでは少々触れた経験があるのだけれど、映像となるとジックリ見るのは初めて・・・いろんな事が見えて来る。

 トスカニーニの音楽作りの秘密については、先のブログに書いた次第だが、目の奥の「魂」が一瞬の間もはずすことなく一点を見据えつつ指揮している姿は、非常に印象的であった。この(あえて言えば)指揮法がトスカニーニを世紀の大指揮者たらしめた要因であろう。

 一方で、トスカニーニに関する「逸話」の理由と原因も又見えてくる。レコードを聴いても、今回のBSの放映においても、時としてオーケストラの音が「固く」、特に弦楽器に少々雑音を含んだ音が聴かれる原因にも納得した。

 演奏されたワーグナーの曲では、フォルテの部分の1拍目は、ほとんど全てを(斎藤指揮法で言うところの)<直接運動>が使用されていた。しかし彼としては<スフォルツァンド叩き>で指揮しているつもりの部分である。「思い」と「実際」が違うのだ。結果1拍目の音の出は<直接運動>の動き始めの「少し後」の部分となってくる。このズレからくる戸惑いは、弦楽器奏者の腕に僅かに(無駄な)力を生むことにつながり、結果「音」に少々の<濁り>が入るのだ。トスカニーニの演奏(音楽)が「固い」と言う特色を持つのは、コレが原因である。

 彼は「耳」で指揮をしているのであり、「腕」で指揮しているのでは無いから、そのズレは演奏者(特に弦楽器)の身体の中に<歪み>を生むことに成る。これが図らずも「トスカニーニらしい演奏」を生む原因となったのだ。しかし、彼の偉大さは別に起因するのであって、<魂が見据えているもの>こそが世紀の大指揮者を生んだ要因である。

 昔のオーケストラ経営者は、指揮者に完全なる<指揮権>を与えた。短気で癇癪持ちであったトスカニーニは、楽員を怒鳴りつけ、徹底的にイビリ・しごいた.....彼の「魂」が見据えている「音楽」に決して妥協しなかったわけだ....。そう出来ることを経営者が保障したのである・・・結果、世紀の大指揮者トスカニーニとNBC交響楽団の名演奏が歴史に残った。

 ところで、なぜ彼が「怒鳴る」ことになったのか・・・その原因は、彼の振る指揮棒を見て(自然に)演奏すると、彼の「魂」が見据えている「音楽」とは違うものになってしまうからだ。演奏者は、怒鳴られることによって、自分の身体の中に生まれる(自然な)演奏の為のエネルギーにバイアスをかけて調整しなくてはならなくなる。コレは演奏者にとってはかなり苦しいことなのだが、トスカニーニの見据えていた<音楽>と、オーケストラ経営者が彼の<怒鳴り>と<イビリ>と<しごき>を容認したことが、「世紀の大指揮者トスカニーニ」を実現させる原動力となった。

 これに似た例が、カール・ベームにも当てはまる。ウィーン留学時に接したベームの指揮については、次の機会に譲ることにしよう。
by jmc_music2001jp | 2009-02-20 02:52 | 芸術随想