カラヤン、指揮法と音楽
2009年 03月 03日
トスカニーニの音楽に接することもほとんど無いままやってきたのだけれど、世界の人気者カラヤンですから、耳に入るチャンスはありました。しかし、どうもその音楽に惹かれたことはありませんでした。映画に例えると、総天然色の美しい画面ですが観光映画みたいに美しい風景ばかりでそれ以上の感動は受けなかったと言うのが正直なところです。白黒映画でも不滅の作品と言うのが沢山ありますが、どうもその様にはならないのです。(とは言え、後年知ったカラヤンはプッチーニが上手いなと思いますし、描写系の音楽も優れていると思いました。いい所をあげれば、一杯あります)
関心の薄かったカラヤンですが、留学当初の衝撃的な体験で彼の<凄さ>を思い知らされました。私のヨーロッパへの第一歩はザルツブルグ、モーツアルテウム音楽院の夏期講習への参加でした。ザルツブルグ旧市街から西方向へバスで6分ほどのペンションに投宿いたしました。4−5日目の事、宿の女主人がザルツブルグ音楽祭の幕開けのガラ・コンサートのチケットを手に「お前はこのコンサートに行きたいか?」と尋ねます・・・っと見ると、7月24日のベルディ作曲・歌劇「アイーダ」です。すかさず「行きたい!!」と答えました。ガラ・コンサートなど決して手に入らないチケットです。(700シリング(当時で1万500円)でしたが、当日の会場入り口で観光客に売れば「少なくとも2000シリングでは売れる」・・・と、現地の日本人留学生の話。)
さて、その貴重なチケットを手に、初めてザルツブルグ音楽祭を体験いたしました。<これでもか>と言わんばかりにお金をかけた舞台には、度肝を抜かれました。さらにもう一つ、指揮はカラヤン。もちろん生でカラヤンの指揮を見るのも初めてです・・・・その指揮に強い衝撃を受けたのです。カラヤンは目を瞑って、なんだか良くわからないような動きの、独特の指揮法....何となくその程度の認識でしかなかったのですが、何と何と!その指揮テクニックの高度に洗練されたレベルの高さに、本当に度肝を抜かれました・・・《恐るべしカラヤン》。
私は日本で最晩年の斎藤秀雄先生に指揮法を学びましたが、その最晩年の斎藤先生がおっしゃっていたテクニックを、非常に高度なレベルでカラヤンが実践しているのを発見したからです。それに気付いてからのカラヤンの指揮は、指揮法の最高のお手本として、研究の対象となりました。
カラヤンは自家用ジェット機を自ら操縦したり、クルーザーのキャップテンとしてヨーロッパの競技で優勝したりするような人です。「もの事の仕組みへの洞察」には只ならぬものがあります。それは彼の指揮法を見れば本当に良くわかります・・・「鬼神」と言う言葉がありますが、彼の「洞察力」を感じる時、その言葉が思い浮かびます。