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by jmc_music2001jp

バーンスタイン・・・『《今》を生きる音楽』

 BSでバーンスタインが放映された。「ウェストサイド物語」収録の現場を記録したものだ・・・鳥肌の立つような凄まじい『時』が記録されている。

 自宅でのリハーサルからスタジオでの録音本番まで、実に興味深い様々な現場が記録されていた。寄せ集めのスタジオ・ミュージッシャンが一発で驚異的な名演奏を繰り広げる様には舌を巻く・・・真に驚愕の現場に立ち会った思い.....これが『プロ』なのだ。心底、《凄い》!っと思う。

 現場に関わる様々な立場の人が「ウェストサイド物語」の音楽を知り尽くした上で参加していることがヒシヒシと伝わってくる。コルペティ(練習ピアニスト)、録音ディレクター・・・・最高レベルの実力を備えた人達が『創造』の現場を作り上げてゆく様子は、緊張感に溢れワクワクさせられる。

 なんと言ってもその中心に居たのはレナード・バーンスタイン。音楽家として、指揮者として、20世紀の奇跡の一人に上げられるだろう。音楽の好みは人様々だとは思うが、指揮のテクニックの素晴らしさにおいては、カラヤンとバーンスタインが最高であるあると思う。特にバーンスタインは『“今”を生きる音楽』の意味で20世紀最高の音楽家と言える。番組中で彼は、自身を謙遜しながら「モーツアルト」について触れていた。「“今”を生きる音楽」と言う意味では、モーツアルトにも匹敵する世界を実現させた音楽家なのではないだろうか。
 
 歌手も実力派が集められた。中でもキリ・テ・カナワが素晴らしい!『声』と『心』と『表現力』が、脅威的なハイレベルの世界で一致している。しかし、『奇跡の場』となったこの録音スタジオに、一人だけ場違いな人物が混入されてしまった.....ホセ・カレーラスである。

 彼は本番最中、自身の歌を歌っている最中に・・・「あれ、コレ・・」と考えを巡らせる。歌うテクニックとしての「段取り」に思いを巡らしつつ・・・歌うのだ。彼は「音楽」が本当に<正直>であることに気づいていないようだ。何を考えているのか、その全てが聴衆にバレバレになってしまうと言うのに・・・。彼はイタリア・オペラの慣習・スタイルに基づいて自らの歌を作り上げようとしていた。頭の中にあるのはソレだけで、『今』誰と、何処に居て、共に何をしようとしているのか・・・などは眼中に無いのである。

 録音中に突然「ここは自分一人で歌いたい」と言い出した。イタリア・オペラのテノールが、一人「声」を張り上げて<見せ場>とする「あのスタイル」のことである。一瞬<場>が凍り付いたが、即座にインスペクターが指揮台に上がり、「時間切れで今日の練習は終わります。では明日」・・・とやって、その場を凌いだ。こういう<現場>のやりとりも、非常に興味深い貴重な記録となっていた。

 バーンスタインは「問題を起こすヤツだ・・・」と嘆き、「せっかく調子が上がってきて、これからだと言うのに」・・・と上着を鷲つかみにし、怒りを露にしながら、カレーラスはスタジオを去る。最期までカレーラス一人が<場違い>であった・・・こう言うのを、業界用語で「テノールバカ」と言う。

 もちろん音楽においても一人<異質>な存在だ。収録をおえたバーンスタインの最期の言葉....「悪くない」・・・カレーラスの起用は、奇跡的な名演奏を繰り広げた今回の録音の、《玉にキズ》となってしまった。
by jmc_music2001jp | 2010-10-18 14:39 | 芸術随想