『音』が“踊る”
2011年 03月 29日
丁度3年前に、同じメンバーで彼のオーディオ装置を拝聴する為に訪れている。その時は一泊して、シーズン最期の“河豚”を楽しんだ。今回は日帰りで、新しいオーディオ・システムを拝聴し、別府温泉を楽しんで帰ることにした。
10時20分に我が家を出発。九州自動車道<太宰府インター>より上がり、鳥栖ジャンクションより大分自動車道へ。お天気が良かったせいか、いつもより車が多い高速道路をノンストップ、まっしぐらに別府を目指した。所用時間1時間10分。別府インターを降りると、昼食をとって、1時に訪問先のS邸に到着した。
新作のスピーカー・システムに真空管を取り替えて比較試聴してみたり、以前から持っていたタンノイのシステムと聴き比べたりしたが、同じCDから様々に異なった特色が現れ出てくるのが非常に面白かった。
一番興味深い体験はゲルギエフ指揮・キーロフ歌劇場管弦楽団による「春の祭典」(ストラヴィンスキー)。新しいスピーカー・システムで聴くと、音楽の躍動感としなやかな生命感が際立ち、まるで音楽そのものが踊りだしたかの様に感じられたことだった。本来バレエ音楽なのだが、踊り手ではなく『音楽』その物が眼前で踊り出す。こんな「春の祭典」は初めて聴いた!素晴らしい演奏だ。
これを真空管を換えて試聴すると、音楽そのものの「踊り」が消えて、通常の演奏に聴こえる。さらにタンノイにして聴くと、楽器の位置関係はより明確にはなるものの、オーケストラは劇場のオケピットに入った「劇場の客席で聴く演奏」に聴こえてくる。
もう一つ面白い変化にも気が付いた。「春の祭典」冒頭のファゴットのソロは、最高音の<レ>の音が難しい。新作のスピーカー・システムでは気にかかる事は無かったのだが、タンノイに換えると、吹き始めの一瞬にリードのノイズが入るのが聴こえて、そのような再現性に優れていることが分った。
シャープな反応と躍動感溢れる新作のスピーカー・システムでは、音が鳴り損なう一瞬を消し去って、音楽に生命を吹き込み響かせる方向に再生してしまうのだ。本来の音の状態を再現することに限定すれば、タンノイに軍配が上がるのだろう。しかし、あのような躍動感に溢れた「春の祭典」は後にも先にも無いだろうと思うし、何よりも『音そのものがダンスする』体験は衝撃的であった。
夕方5時過ぎまでアレコレとオーディオを楽しみ、予定を2時間もオーバーしてS邸を後にした。せっかくの別府、温泉を楽しまない手は無い。昭和初期の建築物がそのまま残る竹瓦温泉に移動する。
昭和初期の建築物は、流石の佇まいを見せていて秀逸。入湯料(何と!百円)を払い、<男湯>の暖簾をくぐると<オォ〜っ!!>っと思わず声を上げた。大きな空間に脱衣場と湯船が一つになって、橋の欄干のような手すりを伝って階段が一階下へと続き、大きな湯船にやや白濁した温泉が、折からの夕暮れの明かりに照らされている・・・。洗い場の床石は、永年の温泉の流れで黒ずんだ三角形のシミに変色して.....これほどヒナビタ温泉は初めてだ。まるで白黒映画の中に迷い込んだような気分.......『ひなびた風情』と言う言葉があるが、この場合ココから「風情」と言う言葉を外して、ありとあらゆる「ヒナビタ」を集めて集約したような印象だ。ところがこの温泉、建物の外観・内装・風呂を総合すると、大変『ひなびた』・・・結構な温泉である。
大分への道中、鶴見岳には白く残雪が残り、春は未だ遠しの感があったが、今日の福岡には桜の便りが届き、さっそく近くの公園で春の訪れを確認した。
<竹瓦温泉、同行した3名の同級生。夜の公園で春の訪れを確かめる>